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2025.10.20
こんな国語をしています②
本校で国語科の非常勤講師として勤務している佐藤学先生(静岡新聞社論説委員)から、寄稿をいただきました。ご一読ください。
こんな国語をしています②
ノーベル賞もたらした「運鈍根」
国語科非常勤講師 佐藤学


9月の寄稿「こんな国語をしています」の続編です。言論探究(6A、6C選択)は毎回「時の話題」から始め、新聞記事を生徒に提示しています。といっても限られた時間なので、授業では見出しだけ。興味があれば後で本文も…読んでくれたらうれしいのですが。

面接試験で新聞を読んでいるかと聞かれることがあったら、「毎日読んではいないけれど、週2回、授業で新聞記事を読んでいます」と堂々と答えてほしいと期待してのことです。「では、どんな記事が印象的でしたか」「あなたはどう考えますか」と聞かれて答えられる学びが「探究」だと私は考えています。

夏休み明けの授業は漢字を切り口に進めています。先日はデジタル端末の変換機能に助けられて自分が漢字を書けなくなっていると「大自在」に書きました。

今年のノーベル賞に、大阪大特任教授の坂口志文さん(74)‖生理学・医学賞‖と京都大特別教授の北川進さん(74)‖化学賞‖の受賞が決まりました。最も大切なのはお二人の研究成果がどれほど人類に貢献するかを理解することでしょうが、国語の授業ですから、お二人がそろって受賞決定の取材で口にされた「運鈍根」に注目しました。

「成功の秘訣」などと語釈され、どの辞書にも載っている言葉です。「運根鈍」とも言うそうです。幸運、根気は分かりやすいですが、鈍を使う適当な熟語が浮かびません。広辞苑は鈍を使わず「愚直」としています。なるほど「愚鈍」より言わんとしていることが伝わるでしょう。鈍は、のろいというより急がないこと、才に走らないことの大切さを言っているようです。各駅停車でいい、フツーでいい、と言われたようで安心しませんか。相対性理論の大物理学者アインシュタインの名言「天才とは努力する凡才である」を思い出しました。

運鈍根は、明治時代に古河財閥を設立した古河市兵衛が唱え続けたそうです。「運は鈍でなければつかめない。利口ぶってチョコマカすると運は逃げていってしまう。鈍を守るには根がなければならぬ」と。経済的な成功と学術研究の成功の底流に同じものがあることに気付かされます。

授業では、自分と運鈍根について200字程度の作文をしてもらいました。生徒諸君にも思い当たることがあり、心に刺さったとみえ、体温を感じる文章を読ませてもらいました。

心技体、走攻守などと言います。次の授業では「私が大切にしたい漢字3字」を書いてもらいました。端末に送られてきたロイロノートのカードにほおが緩み、心が温かくなりました。高度の個人情報のため、紹介できないのが残念。どの子も幸せになりますよう。
(静岡新聞社論説委員=寄稿)
静岡新聞 2025年10月12日(日)

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